2025年11月は国連気候変動枠組条約第31回締約国会議(COP31)の開催地決定やカナダの大型エネルギープロジェクト承認など、グローバルなサステナビリティの動きが活発化した時期です。本日は、11月に投稿された主要なサステナビリティ関連の記事から、企業の経営層が押さえておくべき重要なトレンドをお届けします。
昨日のサステナビリティ最新トピック
持続可能な森林管理がサプライチェーンの競争力を左右する時代へ
森林認証制度(FSC)に基づいた持続可能な森林管理が、単なるCSR活動ではなく、企業の中核的な経営戦略として位置づけられるようになっています。
気候変動に伴う異常気象がサプライチェーンに深刻な影響を与える中、責任ある森林管理は調達の安定性を確保する重要な手段となっています。具体的には、以下の5つの経営的価値が認識されています。
レジリエンス(供給の安定性):必要な時に必要な木材が確保できない場合のコストは極めて高くなります。責任ある森林管理により、地域別・樹種別・季節別のリスク評価が可能になり、調達の予測可能性が向上します。
コンプライアンスとブランド保護:違法伐採や詐欺行為のリスク管理が、単なる罰金回避ではなく、製品回収や小売チャネルの喪失といった経営リスク回避に直結しています。段階的なデューデリジェンスプログラムの構築が必須となっています。
コスト削減と運転資本の効率化:検証済み材料と非検証材料の比較パイロットを実施することで、不良率や納期変動、廃棄損失を定量的に把握でき、サステナビリティ投資の正当性を数値で示すことができます。
成長機会の創出:バイオエコノミーの拡大に伴い、エンジニアリング木材、木質パネル、セルロース繊維テキスタイルなど、新規事業領域への参入には責任ある森林管理の認証が参入条件となっています。
オペレーショナルモデルの簡素化:チェーン・オブ・カストディ(CoC)管理、リスクベースの検証、サプライヤー管理を統合したシステムにより、四半期ごとに定量的な成果を報告できる体制が構築されています[2]。
グローバルな気候変動対策の枠組みが再構築される
2025年11月は、国際的な気候変動対策の枠組みが大きく変わる時期となりました。
COP31の開催地決定:オーストラリアとトルコが2026年11月にアンタルヤで開催するCOP31の共催国に決定しました。太平洋島嶼国がプレCOPを主催することも決まり、気候変動の最前線にある地域の声がより強く反映される体制が整備されつつあります[1]。
損失と損害基金の強化:新たな誓約が損失と損害基金に対して行われ、すべての発展途上国に対する直接アクセス方式が確認されました。また、基金の補充サイクルが確立され、継続的な資金供給体制が構築されました。
カナダが「エネルギー大国」への転換を加速
カナダのマーク・カーニー首相は11月13日、7つの大型エネルギー・天然資源プロジェクトの迅速承認を発表しました。これらは「変革的」と位置づけられ、カナダの経済的自立とエネルギー大国としての地位確立を目指すものです。
主要プロジェクトには、オンタリオ州のクロフォード・ニッケルプロジェクト(ニッケル・コバルト採掘および金属製錬)、ケベック州のマタウィニ鉱山プロジェクト第2段階(防衛用途およびバッテリーサプライチェーン向けグラファイト生産)、ブリティッシュコロンビア州のクシ・リシムスLNG(液化天然ガス)プロジェクト、ヌナブト準州イカルイット近郊の大規模水力発電プロジェクトが含まれています。
これらのプロジェクトは、エネルギー転換期における鉱物資源の確保とクリーンエネルギーインフラの構築を同時に推進する戦略を示しています。
オーストラリアがCO2除去技術の実装ロードマップを公表
オーストラリアの国立科学研究機関(CSIRO)は、オーストラリア二酸化炭素除去ロードマップを発表しました。このロードマップは、新世代のCO2除去(CDR)技術をオーストラリアと世界がネットゼロ達成に向けてどのように展開するかを示しています。
従来のカーボンニュートラル達成手法に加えて、大気中のCO2を直接回収・利用・貯蔵する技術の実装が、実現可能な戦略として位置づけられるようになっています。
米国でGHG報告制度の廃止に対する強い反発
米国環境保護庁(EPA)が2010年から実施されている温室効果ガス報告プログラム(GHGRP)の廃止を提案したことに対し、企業と超党派の議員から強い反発が生じています。
EPAは廃止による10年間のコスト削減を20億~24億ドルと試算していますが、業界側は以下の点を指摘しています。
- 既存および近期のCCUS(炭素回収・利用・貯蔵)プロジェクトへの投資:775億ドル
- 45Q税額控除による米国産業への税収:300億ドル
- 米国から輸出されるLNG:1日あたり20億ドル以上の価値
GHGRPは約8,000の米国施設(製鋼所、石油精製所、石炭火力発電所など)に適用されており、その廃止は気候変動対策の後退と見なされています。
ニューヨークが公営住宅向けエネルギー効率化イニシアティブを始動
ニューヨーク市住宅公社、ニューヨーク電力公社、ニューヨーク州エネルギー研究開発局は、11月13日に家電メーカーとの3,200万ドルの契約に署名しました[1]。このプロジェクトは、ニューヨーク市の公営住宅向けに10,000台の新型エネルギー効率型誘導加熱調理器の開発、パイロット、生産を行うものです。
公営住宅のエネルギー効率化は、低所得層の生活コスト削減と都市全体のカーボンニュートラル達成を同時に実現する施策として注目されています。
まとめ
2025年11月のサステナビリティ動向は、以下の3つの重要なシフトを示しています:
第一に、サステナビリティが経営の中核戦略化していることです。森林管理やエネルギー効率化といった施策が、単なるコンプライアンスやCSR活動ではなく、サプライチェーンの安定性確保、コスト削減、新規事業創出に直結する経営戦略として位置づけられています。
第二に、グローバルな気候変動対策の枠組みが多極化・地域化していることです。COP31の開催地決定や損失と損害基金の強化により、先進国主導から多様なステークホルダーの参画へとシフトしています。
第三に、エネルギー転換期における鉱物資源確保の重要性が急速に高まっていることです。カナダの大型プロジェクト承認やオーストラリアのCDR技術ロードマップは、脱炭素化に必要な物質的基盤の構築が急務であることを示しています。
企業のサステナビリティ担当者は、これらのトレンドを踏まえ、自社のサプライチェーン管理、エネルギー戦略、国際的なコンプライアンス体制の再評価を急ぐ必要があります。特に、責任ある調達と気候変動対策を統合した経営モデルの構築が、今後の競争力を左右する重要な要素となるでしょう。

