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COP30閉幕、森林保全で歴史的融資を実現も化石燃料対策で後退

2025年11月、国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)がブラジルのベレンで閉幕しました。熱帯雨林保全に向けた過去最大規模の融資メカニズムが立ち上がり、約70億ドルの資金が集まるなど、自然資本への投資が加速する一方で、化石燃料廃止に関する記述が最終合意文から削除されるなど、気候変動対策では課題が残る結果となりました。本コラムでは、COP30の成果と課題、および11月の主要なサステナビリティ動向をお伝えします。

目次

昨日のサステナビリティ最新トピック

熱帯雨林保全メカニズム「Tropical Forests Forever Facility」が歴史的融資を達成

COP30の最大の成果の一つが、熱帯雨林保全のための新しい融資メカニズム「Tropical Forests Forever Facility(TFFF)」の立ち上げです。ブラジル、インドネシア、ポルトガル、ドイツ、オランダから約70億ドルの初期資金が集まり、COP開催時としては過去最大規模の森林関連融資となりました。この金額は、年末までの目標である100億ドルに向けて大きく前進しています。

TFFFFは70以上の森林資源国を対象とし、森林保全を継続する国に対して報酬を提供する仕組みです。特に注目すべき点は、資金の20%が先住民族に直接配分される設計になっていることです。森林は最大150兆ドルのエコシステムサービスを提供しており、このような長期的で大規模な融資メカニズムは、経済的・社会的・生態的安定性の実現に不可欠です。

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適応資金の3倍化で合意、ただし実現時期は後退

COP30では、気候変動への適応に向けた資金を2035年までに3倍化することで各国が合意しました。これは適応対策の重要性が認識された成果ですが、当初の目標である2030年から5年延長されたため、近期的な野心が弱まったとの指摘もあります。

同時に、各国は適応進捗を測定するための初期的なグローバル適応指標を承認しました。これらの指標にはエコシステムベースの適応(EbA)が組み込まれており、自然を活用した気候変動対策(Nature-based Solutions)の重要性が国際的に認識されつつあります。EbAは最もコスト効率的で「後悔のない」気候戦略の一つであり、既に農民、生産者、先住民族、地域コミュニティによって実装・拡大されています。

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森林破壊ロードマップが最終合意から削除、政治的課題が浮き彫りに

一方、COP30での大きな失望は、森林破壊を2030年までに停止するためのグローバルロードマップが最終合意文から削除されたことです。このロードマップは交渉期間中に90以上の国から支持を受けていましたが、石油産出国の小規模グループからの反対により、ブラジルが自発的なプロセスを通じて推進することになりました。

企業にとって森林破壊関連のリスクが顕在化する中、グローバルロードマップのような明確で実行可能な枠組みは、政府が約束を実現するための重要な手段となります。この削除は、政治的意思の不足を象徴する出来事として受け止められています。

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化石燃料廃止に関する記述が最終合意から削除

COP30での最大の課題は、化石燃料の段階的廃止と化石燃料補助金の廃止に関する記述が、最終合意文である「Mutirão決定」から削除されたことです。これらの記述は交渉の初期段階では含まれていましたが、石油産出国からの反対により削除されました。

化石燃料補助金は依然として適応資金をはるかに上回る規模で提供されており、ベレンで達成された適応対策の効果を根本的に損なっています。環境に有害な補助金の改革は、より公正な市場の創造、イノベーションの促進、自然ポジティブ経済への転換を加速させるために不可欠です。

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2025年の化石燃料排出量が過去最高を記録する見通し

グローバル・カーボン・プロジェクトの新しい研究によると、2025年の化石燃料からの世界的な炭素排出量は1.1%増加し、過去最高の381億トンのCO2に達する見通しです。この数字は、COP30での化石燃料対策の不十分さを如実に物語っています。

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EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)と企業サステナビリティデューディリジェンス指令(CSDDD)の規制緩和が進行

COP30と並行して、欧州議会は11月13日に「Omnibus 1」に関する投票を実施し、CSRDとCSDDDを「簡素化」する提案を支持しました。この決定は、法律委員会が当初採択した内容よりもさらに規制緩和を進めるものです。

現在、議会、理事会、欧州委員会の間で三者協議が進行中であり、EUの企業サステナビリティ規制の方向性が大きく変わる可能性があります。一方、米国の共和党系州の司法長官らは、米国企業にCSRDとCSDDDへの準拠を拒否するよう促す書簡を送付するなど、国際的な規制調和に向けた圧力が高まっています。

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EU森林破壊規則(EUDR)の適用期限が12月30日に迫る

EUの森林破壊規則(EUDR)の大企業向け適用期限が2025年12月30日に設定されています。この規則は、EUに輸入される商品が森林破壊と関連していないことを企業に証明することを求めるもので、グローバルサプライチェーンに大きな影響を与えます。

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カナダの新政権がエネルギー・天然資源プロジェクトを加速

カナダのマーク・カーニー首相は11月13日、7つの主要なエネルギー・天然資源プロジェクトを迅速承認の対象として発表しました。これらには、オンタリオ州のクロフォード・ニッケルプロジェクト、ケベック州のマタウィニ鉱山プロジェクト第2段階、ブリティッシュコロンビア州のKsi Lisims液化天然ガスプロジェクト、ヌナブト準州の大規模水力発電プロジェクトが含まれています。

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国際資本市場協会(ICMA)がクライメート・トランジション・ボンド・ガイドラインを発行

国際資本市場協会(ICMA)は、グリーンボンド原則に基づいた新しいクライメート・トランジション・ボンド(CTB)ガイドラインを発行しました。このガイドラインは、高排出セクターの企業が、パリ協定の目標達成に向けた重要なプロジェクトの資金調達・再融資を行う際に使用される独立したCTBラベルを導入しています。持続可能な金融における「非常に大きな変化」と評価されています。

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まとめ

2025年11月は、サステナビリティ分野において成果と課題が混在する月となりました。

成果の側面では、COP30での熱帯雨林保全メカニズムの立ち上げと約70億ドルの融資確保は、自然資本への投資が加速していることを示しています。先住民族への直接配分や適応資金の3倍化合意も、より包括的で公正なアプローチへの転換を示唆しています。また、国際資本市場でのクライメート・トランジション・ボンドの登場は、高排出企業の脱炭素化を支援する新しい金融メカニズムとして機能する可能性があります。

課題の側面では、化石燃料廃止に関する記述の削除、森林破壊ロードマップの不採択、2025年の化石燃料排出量が過去最高に達する見通しなど、気候変動対策の実現に向けた政治的意思の不足が浮き彫りになりました。同時に、EU企業サステナビリティ規制の規制緩和圧力も高まっており、国際的なサステナビリティ基準の調和に向けた課題が増しています。

企業のサステナビリティ担当者にとって、この時期は自然資本への投資機会を活用しつつ、規制環境の変化に対応する準備を整える重要な局面です。特に、EUDRの適用期限が迫る中、サプライチェーンの森林破壊リスク評価と対応策の強化が急務となっています。

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