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UNEA-7直前、国際環境ガバナンスの行方を占う交渉の行方

2025年12月7日、ナイロビで開催された国連環境計画(UNEP)の「常設代表委員会(OECPR)」が閉幕し、来週開幕する第7回国連環境総会(UNEA-7)に向けた準備が最終段階に入りました。この日、国際環境法センター(CIEL)が発表した声明は、国際環境交渉の「停滞と後退」への警鐘として、サステナビリティ担当者にとって極めて示唆に富む内容です。本コラムでは、UNEA-7直前の国際環境ガバナンスの動向に焦点を当て、昨日(12月7日)に公表された主要なニュース・声明を要約し、企業のESG戦略に与える示唆を整理します。

目次

昨日のサステナビリティ最新トピック

UNEA-7直前、国際環境ガバナンスの「再起動」の機会

国際環境法センター(CIEL)は2025年12月7日、第7回国連環境総会(UNEA-7)に先立つ常設代表委員会(OECPR)の交渉結果について声明を発表しました。OECPRは、UNEAに提出される決議案や決定案を交渉し、推薦する重要な前段階の会合です。

CIELは、OECPRでの交渉において「特定の加盟国が、これまでの環境交渉で見られたのと同じような、進展を妨げる戦術に容易に手を染めている」ことに懸念を示しています。具体的には、科学と正義が求める気候・環境対策の実行を妨げる動きや、市民社会(CSO)や権利保有者の意味のある参加を制限する傾向が強まっていると指摘。これは多国間主義の弱体化や、既存の環境ガバナンス・原則(公平性など)や法的義務の後退を招くリスクがあるとしています。

一方で、CIELは、来週開幕するUNEA-7が「再起動(restart)の機会」であると位置づけます。UNEA-7では、鉱物、化学物質、廃棄物から、UNEPの運営と資金確保まで、幅広い課題で本格的な進展が求められています。CIELは、加盟国に対して「既存の環境ガバナンスと原則、および法的義務を再確認し、行動を起こす」ことを強く求めています。

この声明は、企業のサステナビリティ担当者にとって、国際的な環境政策の「政治的ハードル」の高さを改めて認識させるものです。UNEA-7の成果次第では、今後の国際的な規制・ガイドラインの厳格化が進む可能性があり、サプライチェーン管理やカーボンプライシング戦略に影響を及ぼす可能性があります。

出典

ユネスコ世界遺産登録と企業のサステナビリティ戦略

2025年12月7日、オーストラリアのエネルギー大手ウッドサイド(Woodside)は、投資家向けの「サステナビリティ・フォーカス・セッション2025」を開催し、同社のサステナビリティ戦略に関する説明を行いました。

このセッションでは、西オーストラリア州のムルジュガ(Murujuga)がユネスコ世界遺産に登録されたことの意義について、サステナビリティ・ポリシー・外部関係担当エグゼクティブバイスプレジデントとグローバル先住民問題・人権責任責任者が説明。ムルジュガは、世界最大級の先住民岩絵群を有する文化的・環境的に極めて重要な地域であり、その世界遺産登録は、同社の事業活動に対する社会的・環境的配慮の重要性をさらに高めるものです。

ウッドサイドは、世界遺産登録を踏まえた対応方針や、先住民コミュニティとの関係構築、環境保護措置について投資家に説明し、質疑応答も実施しました。これは、企業が「文化的・自然的価値の高い地域」で事業を展開するうえで、国際的な保護ステータスの変化が、ESGリスク管理やステークホルダー・エンゲージメントに直接影響を及ぼす好例です。

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EUサプライチェーン森林破壊防止法:実施延期と規制の簡素化で合意

2025年12月7日、欧州連合(EU)理事会と欧州議会は、サプライチェーンにおける森林破壊防止法(EUDR)について、実施の延期と規制の簡素化で合意しました。これにより、すべての事業者が新ルールに準拠する期限が1年間延長されます。大規模事業者・取引業者は、より具体的な義務を段階的に履行していくことになります。

この合意は、企業にとって「猶予期間」が与えられた一方で、森林破壊防止という大枠の方向性は変わらないことを示しています。特に、農産物や木材、鉱物など森林関連サプライチェーンを抱える企業は、1年間の猶予を活用して、調達先のモニタリング体制やデジタル・トレーサビリティの整備を加速させる必要があります。

また、フィンランドの事例が示すように、森林は気候変動下で「炭素吸収源」としての役割がますます重要になっています。EUDRの動向は、森林資源の持続可能な管理だけでなく、カーボンクレジットや自然関連財務報告(TNFD)とも深く関連しており、企業の自然関連リスク管理戦略に大きな影響を与えます。

出典

まとめ

2025年12月7日に公表されたサステナビリティ関連の情報から、昨日の主な動向を整理すると、以下の3点が浮かび上がります。

1. 国際環境ガバナンスの「政治的リスク」の高まり

UNEA-7直前のOECPR交渉をめぐるCIELの声明は、国際的な環境交渉が「科学と正義」ではなく、政治的・経済的利益を優先する方向に傾きつつある可能性を示唆しています。企業のESG戦略は、こうした「国際ルールの不確実性」を前提に、よりロバストなリスクシナリオを想定する必要があります。特に、UNEA-7で鉱物・化学物質・廃棄物に関する新たな決議が採択されれば、サプライチェーンの化学物質管理や廃棄物処理の基準が厳格化される可能性があります。

2. 世界遺産登録が企業のESGリスクを顕在化

ウッドサイドの事例が示すように、文化的・自然的価値の高い地域が国際的に保護ステータスを得ることは、企業の事業リスクを顕在化させるトリガーとなります。今後、世界遺産や保護地域周辺での事業活動を展開する企業は、事前の環境・社会影響評価(ESIA)や先住民・地元コミュニティとの合意形成(FPIC)のプロセスを、より厳格かつ透明に実施することが求められます。これは、人権デュー・ディリジェンス(HRDD)や自然関連財務報告(TNFD)の実践とも直結します。

3. EU森林破壊防止法の延期は「猶予」であり「撤回」ではない

EUDRの実施延期は、企業にとって「時間の猶予」を得たことを意味しますが、森林破壊防止という大枠の方向性は揺るぎません。企業は、この1年間を「サプライチェーンの可視化・トレーサビリティ強化」の期間と位置づけ、調達先のモニタリング、GISやブロックチェーン等のデジタルツールの導入、自然関連リスクの定量化(TNFDフレームワーク活用)を進めるべきです。また、森林の炭素吸収源としての価値が高まる中、カーボンクレジットの信頼性確保や、自然資本の評価・報告も、今後のESG戦略の重要な柱となります。

企業への提言

  • 国際環境交渉の動向をモニタリング

UNEA-7やCOP30など、今後の国際会議の成果を注視し、規制強化のシナリオをESG戦略に組み込む。

  • 高価値地域での事業活動の見直し

世界遺産や保護地域周辺の事業については、環境・社会影響評価とステークホルダー・エンゲージメントのプロセスを再点検。

  • EUDR対応を「猶予」ではなく「加速」の機会に

サプライチェーンのトレーサビリティ体制を強化し、TNFDや自然関連リスク管理の枠組みを早期に導入。

昨日の動きは、企業のESG戦略が「規制遵守」の域を越え、「国際ガバナンスの変化」や「自然・文化資本の価値変化」を先読みする「戦略的サステナビリティ」へと進化する必要性を、改めて示していると言えるでしょう。

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