「サステナビリティを3本柱から統合システムへ――企業戦略にも影響する『システム・リセット』論文の示唆」
2026年1月10日は、「サステナビリティの前提そのもの」を問い直す学術論文と、身近な消費財を題材にした環境影響評価など、実務にも直結しうる話題が目立ちました。
なかでも特筆すべきは、「自然・経済・社会」という従来の三本柱モデルを捨て、「自然を基盤とした統合システム」でサステナビリティを再定義すべきだと提案する国際研究チームの論文です。本稿では、昨日新たに公表・報道された海外の専門性の高い情報を中心に、その要点と企業のサステナビリティ戦略への示唆を整理します。
昨日のサステナビリティ最新トピック
1. 「サステナブル開発のシステム・リセット」国際研究チームが提唱
サステナブル開発を「自然を土台としたシステム」に再設計すべきという提案
2026年1月10日付で報じられた国際研究チームの論文は、持続可能な開発の概念そのものをシステム・リセットする必要があると主張しています。論文は Nature 系ジャーナル Communications Sustainabilityに掲載され、IPBES(生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)の関係者などが著者に名を連ねています。
この研究が問題視するのは、ここ30〜40年にわたり広く共有されてきた「自然・社会・経済の3本柱」モデルです。
著者らは、次のように論じています。
- 現在の3本柱モデルは、
- 気候変動
- 生物多様性の喪失
- 社会的不平等
といった複合危機に対し、「分断された、競合する優先順位」を生みやすく、結果としてサステナビリティの目標達成を妨げてきた。
- 本来、自然・経済・社会は別々の柱ではなく、1つの統合されたシステムの層として捉えるべきである。
論文が提示する新しいモデルの特徴は、次の二重の視点です。
1. ボトムアップの視点(下から上へ)
- 自然(生態系・自然資本)を最下層の土台
- そのうえに経済活動(産業・ビジネス)
- 最上層に社会(人々の生活・福祉)
という「自然 → 経済 → 社会」の流れで、自然からの便益が経済を通じて人々に届けられる構造を可視化する。
2. トップダウンの視点(上から下へ)
- 社会の価値観やガバナンスが、
- どのような経済システムを許容・促進するかを決め
- それが自然にどのような影響を与えるかを規定している
という、「社会 → 経済 → 自然」の因果を明示する。
この「二方向からの理解」により、従来のモデルでは見落とされがちだった価値観の問題(values failure)が浮かび上がります。
- サステナビリティの失敗は、「市場の失敗」だけではなく、
- 短期利益
- 抽出・私有化
といった狭い経済観を優先してきた価値の失敗でもある。
- これに対し、
- ケア
- 相互扶助
- 自然や他者への敬意
といった多様な価値を、政策やビジネスの意思決定に組み込む必要がある。
論文は、今後のポスト2030の国際アジェンダやSDGsの更新議論を見据えつつ、企業や自治体も含めた「全社会的なシステム変革」の方向性として、次の4つの転換を提案しています。
1. 「成長」ではなく「システムバランス」を基軸とする
- すべての人間活動は、生態系の安定性に依存していることを前提にする。
2. 「複数の価値」を埋め込む
- 先住民や地域コミュニティの世界観・文化的価値・関係性の価値などを、主流の政策・指標に取り込む。
3. システムベースのガバナンスを採用する
- 社会・経済・自然の相互作用とフィードバックを踏まえた政策設計・規制・投資判断を行う。
4. 「進歩」の再定義
- GDP成長ではなく、
- 自然資本
- 社会資本
- 経済資本
の健全性と、その間のフローを測るような指標へとシフトする。
ビジネスへの示唆は明確です。
- サステナビリティ戦略は、「環境」「社会」「ガバナンス」のチェックリストを埋めるだけでは不十分であり、
- 自社のビジネスモデルが「自然 → 経済 → 社会」の流れのなかで、
- どのように自然からの便益を引き出し、どの程度その基盤を毀損しているかを可視化し、ガバナンスに組み込む必要がある。
- 同時に、取締役会や経営層が共有する価値観の明文化と変革(例:長期志向・地域との共生・先住民/ステークホルダーの視点の取り込み)が、サステナビリティ経営の「前提条件」となる。
日本企業の文脈では、これまで「3本柱」や「トリプルボトムライン」を前提としたESG戦略を構築してきたケースが多く、この新たなフレームは中長期的にサステナビリティ方針やKPI、マテリアリティの整理の仕方そのものに影響を及ぼす可能性があります。
- 出典URL(報道):
(※元論文は Communications Sustainability 掲載 A systems reset for sustainable developmentであり、DOI: 10.1038/s44458-025-00009-3 とされています。)
2. トイレットペーパーの「エコ」を検証:ライフサイクルから見た環境負荷の違い
エコトイレットペーパーの環境負荷は一様ではない、という分析記事
2026年1月10日、米国の地方紙 The Columbian は、「エコフレンドリーなトイレットペーパーの実際の環境影響は、商品によって大きく異なる」ことを指摘する記事を掲載しました。日常的な消費財を対象としつつも、ライフサイクル思考やサプライチェーン管理にとって示唆の多い内容です。
主な論点は以下の通りです。
- 竹や再生紙といった「サステナブル」をうたうトイレットペーパーは、一般的に価格が高い一方で、環境メリットを持つ可能性がある。
- しかし、どの商品も自動的に環境に優しいわけではない。
- 原料の調達方法
- 製造プロセスのエネルギー源
- 漂白・加工に用いられる化学物質
- 物流の距離・方法
などによって、トータルの環境負荷が大きく変わる。
- 環境NGOネットワークである Environmental Paper Networkは、原生林伐採の回避、再生紙利用率、漂白工程などを含む指標から、トイレットペーパー製品を評価しており、「サステナブル」を名乗る商品でも評価に差が出ているとされています。
記事は、消費者向けのメッセージに留まらず、次のような構造的示唆を含んでいます。
- サプライチェーン全体でのライフサイクル評価(LCA)の重要性
- 原料調達(森林管理認証・再生資源の利用)
- 製造(再生可能エネルギー利用・水利用・化学物質管理)
- 輸送(輸送距離・モード)
- 廃棄(リサイクル可能性・生分解性)
などの総合評価なくして、「エコ製品」とは言えない。
- グリーンマーケティングへの規制・期待の高まり
- 消費者やNGO、投資家が、表面的な「エコ」表示ではなく、
- 具体的なエビデンス
- 第三者認証
- 定量的な環境情報
を求め始めている。
企業にとっては、次の点が実務的な示唆となります。
- 紙・パルプ製品に限らず、「環境配慮型」や「サステナブル」を冠する製品では、LCAに基づく根拠の開示が求められる。
- サプライヤー選定や調達方針において、森林由来原料の持続可能性(FSC等)に加え、エネルギー源・化学物質管理まで踏み込んだ基準の設定が重要。
- 投資家・規制当局からのグリーンウォッシング批判を避けるためにも、
- 製品環境フットプリント(PEF)
- カーボンフットプリント表示
などの標準化された指標・認証の活用が有効。
- 出典URL:
3. 環境・気候関連ニュースの総覧的ブリーフィング(1月10日分)
「環境ブリーフィング」にみる、気候・生物多様性・公平性をめぐる複合課題
環境ニュースを横断的にまとめるオンラインメディア EnviroLinkは、2026年1月10日分のブリーフィングで、気候・生物多様性・社会的公正が交錯する多様なトピックを整理しています。個別トピックはいずれも既存報道の二次的整理ですが、サステナビリティ担当者が「地政学・社会動向を含めた全体像」を把握するうえで有用です。
同ブリーフィングで取り上げられた主な論点は以下の通りです。
- 気候システムの物理的現実
- 2025年、海洋は「毎秒12発の広島型原爆に相当するエネルギー」を吸収し、9年連続で海洋熱含有量が増加したとされています。
- これは、温暖化の大部分が海洋に蓄積されている事実を、感覚的にも理解しやすい形で示しています。
- 地域レベルの変化とレジリエンス
- カリフォルニア州は、25年ぶりに州全域が「干ばつなし」の状態になったとされ、極端気象のなかでも自然の回復力が示された事例として紹介されています。
- ただし、気候変動下では極端な干ばつ・豪雨が繰り返されることが予想され、一時的な好転が長期的なリスクの低減を意味するとは限らないことも示唆されています。
- 生物多様性と日常空間の変化
- 英国の庭園では、従来販売されていた園芸植物種の半数以上が流通から消失し、多様性が失われつつあるとの分析が紹介されています。
- 生物多様性の問題は保護区に限らず、都市・住宅地など人々の生活空間にも及んでいることが浮き彫りになります。
- 不平等と「炭素エリート」
- Oxfamの新たな分析として、超富裕層は数日で「年間の1人当たり許容カーボンバジェット」を使い切っているという試算が紹介されています。
- 気候変動対策をめぐる「誰がどれだけ排出しているか」という公平性の議論が、今後一段と強まることが予測されます。
- 環境問題と政治・制度との緊張関係
- 一部政府が国際的な気候・環境協定からの離脱を進める一方、科学者が「国家の敵」とラベリングされる懸念を抱くなど、科学・政策・政治の関係性の緊張も報告されています。
- 同時に、COP30における先住民リーダーの発言や、AIと保全をめぐる議論など、新たなアクター・技術の台頭も取り上げられています。
企業にとってのポイントは、以下の通りです。
- 気候・生物多様性・社会的公正は、もはや個別のテーマではなく、相互に強く結びついた「システム課題」である。
- 富裕層・先進国・グローバルサウスといった排出と被害の非対称性への視線が鋭くなるなか、
- サプライチェーン上の人権・公正な移行(Just Transition)
- 高排出セグメントを対象とした製品・サービスの見直し
などが、今後のESG評価やレピュテーションリスクに直結しうる。
- 出典URL:

まとめ:企業サステナビリティ担当者への示唆
2026年1月10日に新たに報じられたサステナビリティ関連トピックを俯瞰すると、共通して浮かび上がるキーワードは「システム」です。
1. 概念レベルのシフト:3本柱から「統合システム」へ
- 自然・経済・社会を切り分けて扱う従来の発想から、
- 自然を基盤とし
- 経済はそのうえに成り立ち
- 社会は経済を通じて自然からの便益を享受する
という一体のシステムとしての理解へと、国際研究コミュニティが舵を切り始めています。
- これは、企業のマテリアリティ評価、KPI設計、統合報告・サステナビリティ報告の枠組みの見直しを迫る議論になり得ます。
2. 製品・サービスレベルの精査:LCAとグリーンウォッシング回避
- 「エコトイレットペーパー」を題材とした分析が示すのは、環境配慮をうたう製品でも、サプライチェーンから廃棄までのトータル評価が不可欠であるということです。
- 環境ラベルやマーケティング表現が、今後さらに規制・社会的監視の対象となる可能性を踏まえ、企業は証拠に基づく環境主張と透明な情報開示を強化する必要があります。
3. マクロ環境としての「複合危機」と「公平性」
- 海洋熱の蓄積、地域ごとの水ストレスや生物多様性の変化、超富裕層の排出集中など、物理的なリスクと社会的な公正性の課題が絡み合う構図が一層鮮明になっています。
- 企業戦略としては、
- 自社のバリューチェーンがこれらのどの部分に関与しているのか
- どのコミュニティにどのような影響を与えているのか
を、「リスク」と「価値創造」の両面から構造的に捉えることが重要です。
本日の目玉トピックである「サステナブル開発のシステム・リセット」論文は、ESG・サステナビリティ担当者にとって、単なる学術議論ではなく、次のような「問い直し」を突き付けています。
- 自社のサステナビリティ戦略は、
- 依然として「環境・社会・経済のバランス」を取ろうとする3本柱の発想に留まっていないか。
- 自社のビジネスモデルは、
- 自然資本の維持・回復を前提にしたシステムバランスの最適化へと、本当に移行しはじめているか。
- ガバナンス・意思決定の根底にある価値観は、
- ケア・相互性・長期性といった価値を十分に反映しているか。
「システムとしてのサステナビリティ」を前提にしたとき、ESGは単なるチェックリストや開示のための枠組みではなく、企業そのものの設計思想を問い直す議題になります。
この視点から、自社のサステナビリティ方針・KPI・ガバナンス構造を改めて棚卸しし、次期中期経営計画やロードマップの議論に反映していくことが、いま求められつつあります。

